日日是女子日

細かすぎて役に立たない旅行ガイド

ニュージーランド(ペンギンに会いたい編④)

ニュージーランド ペンギン記事の続き。

 

ブッシービーチのペンギンたちに満足した我々は、次なる目的地「オアマルブルーペンギンコロニー」へと向かった。

ここでは、エサを取りに海に出たブルーペンギンたちが巣に帰ってくるのを観察できる。

 

これが、想像以上に良かった。これだけでもニュージーランドに来た甲斐があった。本当に感動した。しばらくドキドキした。

 

しかし、この素晴らしい体験をするためには、絶対に外せない重要なコツがある。忘れないうちにそれだけ書いておきたい。

 

  • ちゃんとペンギンが見たければ、絶対にプレミアムエントリーにすること。ジェネラルエントリーでは、人ですら豆粒に見えるような距離から、体高約30センチの小さなペンギンを見なければならない。
  • できるだけ海に近い席を取ること。そうすれば、ペンギンたちが海から陸に上がるところが観察できる。海側の席でなければ、人や岩の陰になって見えない。そのために、遅くても30分前には入っておくこと。

 

これからオアマルブルーペンギンコロニーに行く予定の方は、以上をお忘れなきよう。

 

 

 

さて、大事なことは書いたので、ここからは私の好き勝手に(公序良俗に反しない範囲で)書きたいと思う。

 

f:id:suzpen:20190212220909j:image

コロニー近くの「ペンギン注意」の標識。ブルーペンギンコロニーなのに、イエローアイドペンギンなのはご愛嬌ということで。

 

 

ブッシービーチを後にした我々は、ビューイング開始の30分ほど前に駐車場に着いた。駐車場というか、山を切り開いた空き地のような空間は、開始まで時間があるにも関わらず、既に半分ほど埋まっていた。

 

車が多いのではない。中途半端な間隔をあけて、皆がてんでばらばらの向きに停めるせいで、入るはずの面積に入れるべき数の車が収容できないのである。ラインが引いていないのを良いことに、3台は余裕で停められるスペースに1.5〜2台くらいしか停めていない。日本でこんな停め方をすれば、場内アナウンスで、至急お車の移動をお願いされるに違いないレベルである。

 

うっかり雑な人の隣に停めれば、「ちょっとハンドル切りすぎたぜHA-HA!」などと擦られかねないので(偏見)、たまたまキッチリ停めた車の横にスペースを見つけ、すかさずそこに駐車した。

 

 

車を降りて歩くと、ペンギン顔ハメ看板があった

 

f:id:suzpen:20190212164210j:image

ブルーペンギンっぽいけど何か違う。疑惑の謎ペンギン。

 

この顔ハメ看板の向かい側の建物が受付である。我々は既に公式ウェブサイトで支払いまで済んでいたので、名前を伝えてパンフレットを受け取り、そのまま入場した。ちなみに、建物内には、色々なペンギングッズが販売されており、ペンギン好きにはたまらない、幸せ散財スペースである。

 

ビューイングスペースに向かって受付の建物を出ると、35ドルの普通席に向かう通路と、50ドルのプレミアム席に向かう木道の二手に分かれる。

今回は奮発してプレミアム席にしたのだが、席までは木陰を縫うように設置された木道をクネクネと進まなければならない。普通席が受付を出てすぐのところにあるのとはエライ違いである。

 

そうしてたどり着いたのは、雛壇のようなプレミアム席。記憶が曖昧だが、10人用くらいのベンチが6段ほどだったと思う。席は自由だ。

前方の席は既に埋まっていたので、仕方なく最後段、雛壇に向かって左から2番目と3番目の席に座った。我々の右側、つまり最も海側の席には幼児を抱いた中国人女性が座っており、横から覗くと彼女の向こうに海岸が見えた。

海岸には1メートルほどの四角い岩がゴロゴロしており、岩と岩の間を波が出たり入ったりしていた。

後からわかったのだが、海から帰ってきたペンギンたちは、この岩場を乗り越え、急な坂を上りきり、平坦な砂地を走り抜けて木製の柵をくぐり、巣に帰る。プレミアム席は、まさにこの砂地の真ん前にある。

 

周りを見ると、ほとんどが身なりの良い中国人の家族連れだった。言葉はわからないが、ウキウキしている感じは伝わってくる。

 

ふと海の方を見遣ると、悲しげな目をした老人が、ごつい双眼鏡を覗きながら、無線で何やら話していた。ペンギンの接近を確認しているらしい。彼はきっと老練なペンギン探し師なのだ。

 

ペンギン探し師が話している相手は、数十メートル離れた普通席にいる男性スタッフらしかった。男性はペンギン探し師から無線を受けると、マイクに向かってペンギンの接近と、観察時の注意事項を陽気に伝えた。驚くことに、そこには中国人スタッフまでおり、おそらく同じ内容を中国語で繰り返した。スタッフらの声は、マイクとスピーカーを通して、こちら側にもうるさいくらいの音量で響いている。

「ペンギンが怖がるのでうるさくしないように」という注意もあったが、お前らの方がよっぽどうるさいのではないか、と思ったのは秘密である。(が、多分みんなそう思っていただろう。)

 

ペンギンの接近が伝えられてから、どれくらい経っただろうか。

寒さで鼻の頭がツンとしてきた頃、とうとうペンギンが到着したとのアナウンスがあった。我々の席からは、海岸全体を見渡すことはできなかったものの、陸に上がろうと踠くペンギンたちの一部分だけ見ることができた。

 

岩場には、既に海から出て念入りに羽繕いするペンギンたち。疲れているのか、じっと動かないペンギンもいる。

しばらく留まった後、準備の整ったペンギンから順に、少しずつ砂地の方に進み出てくる。

砂地の入り口に着くと、一旦立ち止まって様子を確認する。砂地に入れば、天敵から身を隠すところがないのだ。慎重になって慎重すぎることはない。

 

ふと、先頭のペンギンの表情が、急に険しくなったように見えた。

次の瞬間、まるでヨーイドンをするように、20羽ほどのペンギンたちが次々とダッシュし始めた。ブルーペンギン独特の前屈みの姿勢で砂地を横切り、整然と柵を潜り抜けると、草むらの中に消えていった。そこに巣があるのだろう。

 

ペンギンたちが通り過ぎると、静まっていた客席が、急にざわつき始めた。中国語なのでわからないが、たった今目撃した大偉業について語り合っているのだろう。ペンギンたちは無事ミッションを完了したのだ。

 

素晴らしい!頑張るペンギンたちを、もっと見たい。

 

そうして、我々はまたペンギンの到着を待った。

空がすっかり暗くなり、気温がぐんぐん下がり出す。

 

この時点で、普通席の客は半分ほど帰ってしまっていた。どうせよく見えなかったのだろう。もし見えていたら、絶対にもっと見たいと思うはず。あんなにアッサリと帰るわけがないのだ。

 

その証拠に、プレミアム席の客は全員、寒さに耐え、辛抱強く待っている。

しかし、やはり寒いのだろうか、それとも飽きたのか、右隣の子どもがグズり始めた。母親があやしても一向に機嫌が直らず、子どもを抱いて残念そうに帰って行った。

彼女には気の毒だが、我々はこれ幸いと海側に席を移動した。さっきまで一部しか見えなかった海岸が、全て見渡せるようになった。

 

ペンギン探し師は双眼鏡を見続け、無線でスタッフと連絡を取り合っている。

スタッフは、観客が退屈しないように、時々思いついたように解説を始めたりする。スタッフが話せば、当然同じ内容の中国語アナウンスも入る。これでは中国人が多いわけだ。

 

 

と、波打ち際が急に騒がしくなった。再びペンギンたちが帰ってきたのだ。さっきよりも多い。

 

波に揉まれながら、上陸しようともがいている。岩に叩きつけられ、引き波に流され、せっかく岸に泳ぎついても再び波に押し戻されてしまう。それでも諦めずに陸によじ登るペンギンたち。

 

がんばれ!がんばれ!

手を固く握りしめて応援するうちに、少しずつ、上陸に成功するペンギンが出てきた。疲れた体を引きずって、なんとか波の来ない場所まで移動すると、ほっとしたように羽繕いを始める。双眼鏡で見ると、濡れた羽がツヤツヤしている。寒そうだ。冷たい海から上がって、濡れたまま風の中でじっと空間を見ている。

 

そうして、準備が整ったペンギンたちは前に進み、また砂地の前で息を詰める。

首を前に傾け、走り出すかと思うと動かない。人間が見ているのだから、よほどのことがない限り安全なはずだ。それでも、彼らが納得いくまで慎重に確認し、ヨシと思ったら走り始める。

 

不思議なことに、彼らがダッシュし始める前、「ヨシ行くぞ」という顔をする。大丈夫みたいだ、ここを大急ぎで走り抜けて、ヒナに餌をあげなくちゃ。

 

羽繕いをしていたペンギンたちが何回かに分かれて巣に戻った後、よく見ると巣とは逆方向に向かうペンギンが4羽いた。時々立ち止まりながら、どんどん逆方向に進んでいく。心配して見ていると、次々にヒョイっとどこかに消えていった。

あれは、エリート・ペンギンによる秘密組織「ブルーペンギンズ(フロム・マダガスカル)」の特殊任務だったのだろうと信じている。

 

ブルーペンギンズのミッションも終わったようだし、既に22時近く、腹も空いて来たので帰ることにした。スタッフによると、この日は69羽のペンギンが帰って来たらしい。パンフレットによると、1月は150羽ほど見られるということなので、半分程度だったことになる。169匹の間違いかとも思ったが、感覚的にそこまで多くはなかったから、やはり69羽で合っているのだろう。

 

帰りに木道を歩いていると、先を歩いていた老夫婦がこちらを振り返り、声を出さずに合図をくれた。奥さんが手を伸ばして、地面を指している。

指の方向を見ると、巣に戻ったペンギンたちがいた。とても近い。よく見ると、木道沿いに多くのペンギンがおり、赤い照明で照らされていた。この赤い照明は、確かペンギンには見えない光だったはずだ。

近くで見ると、とても小さく儚げである。この可愛らしい小さな生き物が、さっきまで荒波と戦っていたのだ。なんと健気で逞しいのだろう。

 

大仕事を終え、リラックスしたペンギンたちを驚かさないように、息を潜め、足音を立てないように気を遣いながら、そろそろとコロニーを後にした。

 

ペンギンが、あんなに表情豊かだなんて知らなかった。

もっともっとペンギンが好きになった。

 

 

ペンギンに会いたい編終わり。

普通の旅行記に続く。