ドイツ編②からの続き。
1月3日、フランクフルトへ移動
まだ暗い中(といっても朝7時過ぎ)、ホテルをチェックアウトし、最終目的地フランクフルトに向かう。ニュルンベルク駅構内をぐるりと回って、最もビビッと来たパン屋で朝ごはんを入手した。Hofpfistereiという店で、ミュンヘンのチェーンらしい。大きなプレッツェルとケシの実をまぶしたパンを買ったら、スライスのパンをおまけしてくれた。前日の売れ残りと思われるが、ありがたい。

もう7時過ぎなのに、この暗さ。
空腹に耐えきれず、立ったままムシャムシャとプレッツェルを食べていたら、怪しげなオジサンに話しかけられた。何を言っているのかはわからないが、関わらないが吉。モグモグしながら立ち去った。プレッツェルに気を取られて油断していたが、用もなくただ立っていると隙を与えるので、時間まで駅構内を歩き回るのがよかろう。途中ホットチョコレートを買うか迷ったが、片手が塞がるとスーツケース(私史上最大重量)を引くのも大変になるので諦める。

特大プレッツェル。けっこう塩がついている。
ホームに上がると8時前なのにまだ暗い。フードを目深に被り、震えながら遅れている電車を待つ。夫が喫煙所に行っている間、興味深い何かを観察していた記憶だけはあるのだが、それが何だったか全く思い出せない。レーゲンスブルク然り、どうやら私の頭は寒いと記憶能力が働かなくなるらしい。
ようやく到着した電車に乗り込み、しばらくすると空が白んできた。ドイツの田舎を車窓に見つつ、ケシのパンにハムを挟み、ラドラーとともに優雅な朝食を楽しんだ。ちなみにハムは大晦日にスーパーで買って結局食べなかったもの、ラドラーもニュルンベルク滞在中のどこかのタイミングでスーパーで買ったものである。旅行中でも食糧の備蓄は大事だな。

優雅な朝ごはん
フランクフルトには10時過ぎに到着した。 朝からビールを飲んでいる幸せそうなオジサンはどこにもいない。もうみんな仕事が始まっているのだ。中世の雰囲気残る◯◯ベルク三都市を巡った後に訪れると、なぜか東京に似ていると思ってしまう。普通に近代的な都市である。
ひとまずホテルに荷物を預けようとトラムに乗っていると、ちょうど降りる直前で係員が検札が回ってきた。ドアが開く直前だったが、しっかりと切符を係員に見せつけて降車。こちとらきちんと金払って乗っているのだ、「買ってないから降りて逃げた」のようなあらぬ疑いを受けたら堪らない。
ホテルは真新しいMelia Frankfurt City、ゼンケンベルク自然史博物館のすぐ近くにある新しいホテルである。ここのホテルを取った理由は、①自然史博物館に近い、②新しいのでトコジラミのリスクが低い、の2点である。フロントで荷物を預け、いざゼンケンベルク。

恐竜が目印、ゼンケンベルク自然史博物館外観
フランクフルトに行くことが決まってから、絶対に行きたいと思っていた博物館である。自然史博物館だとか科学技術博物館の類は低クオリティであっても味わいがあるが、本館はまさにまさしく期待通りの素晴らしい博物館であった。展示も老若男女知識の有無を問わずに楽しめる工夫がしてある。学研育ちの理科オタクなら、ナントカ大聖堂だのナントカ広場よりもゼンケンベルクである。ただ、冷静に思い出すと、ここもウイーン同様、石っぽいものは多かった。特に鉱物コーナーは、規模こそウイーンに劣るものの子どもから大人まで大人気である。
そして、やはり剥製の出来と保存状態が恐ろしく素晴らしい。今にも動き出しそう、というより、動いていないことに違和感を覚える。動物愛護の観点から、そして一応仏教式の葬送儀礼を行う民族として、無用な殺生には抵抗がありつつ、出来の良い剥製には抗い難い魅力がある。

カピバラを食べるアナコンダの剥製ほど、どうやって作ったのか気になるものもそうはあるまい。

ライオンの剥製はオスメス合わせて寄贈1913年とのこと。

100年以上前に作られてこの保存状態である。

色褪せパンダ。 あと100年も保管したらシロクマになりそう。
そして、膨大な鳥コレクションも見どころの一つ。科博の鳥展ではギュウギュウの人混みに辟易したのだが、ここの混雑具合は乗車率で言えば50%程度だろうか。しかも、鳥展が600種で「一生分の鳥が見られる」と喧伝していたところ、ゼンケンベルクはドイツクオリティの素晴らしい剥製が832種1,106標本。いわば1.4生分の鳥である。親指ほどの小鳥ですら素晴らしい出来栄えである。

崖から決死の覚悟で飛び降りるヒナで有名な、カオジロガン。
剥製と言って良いのか、始祖鳥やドードーを復元したモデル?があったが、こちらも素晴らしい出来栄えである。そして、ドードーの斜向かいには元祖ペンギンことオオウミガラスもいる。オオウミガラスは個体数が激減し標本価格が高騰したため、愚かな人類が競い合って狩ったために絶滅してしまった種である。 展示では本物か模造品かは明確にしていなかったが、もし本物であれば複雑な気持ちになる。

始祖鳥。何の鳥の羽を使っているのだろうか。

ドードー。

オオウミガラスの骨格標本と剥製。こっちのペンギンも「実は足が長い」ことがわかって感動。
昼は街中でハンバーガー(Googleマップ)。ドイツでもハンバーガーをナイフとフォークで食べるのか確認したかったのだ。バンズが選べたのでブリオッシュを選択(パンが選べるならブリオッシュを食べれば良いじゃない!と夫に言ってダダ滑りした)。
果たしてドイツでも白人はナイフとフォークで食べている。綺麗な形を保ったまま食べられるので合理的だとは思うが、手で掴んでワシワシ食べた方が美味しい気もする。ただ、これは単に私が世代的に「『私のあしながおじさん』でジュリアがホットドッグを生まれて初めて手づかみで食べて感動する」回の影響を強く受けているだけなので、ナイフとフォークの使用は否定しない。
ちなみにここでも接客担当はアジア系(マレー系かな)の若者。呼ばずともこちらが必要とするタイミングで来てくれるシゴデキな若者である。この辺ではアジア系の客にはアジア系の店員、というのが主流なのだろうか(シゴデキなのでマイクロアグレッションとか文句は言いませんよ)。サクッと注文してサクッと食べてサクッと会計して出てきた。

ハンバーガー。フライドサツマイモが選べたので、サツマイモにした。(じゃがいもの方が背徳感のある味でおいしい。)
その後は街歩き。危険エリアに立ち入らなかったせいでもあるが、『ドイツ最恐」と聞いていたほどの治安ではない。散々警戒していたヤクの売人もヤク中らしき人も見かけない(ソーセージの売人とソーセージ中毒者はたくさんいる)。ニュルンベルクが巣鴨なら、フランクフルトは歌舞伎町〜新宿駅東口程度の違い。所詮は治安の良いドイツなのだ。
街中の大きなマーケット「クラインマルクトハレ」(クライン・マーケット・ホールですね)は肉の品揃えが豊富で、中東系移民の多さゆえかハラール対応の店もあったりする。気温が低いせいか、市場特有の匂いは薄い。八百屋では生のシイタケマッシュルームが売っていたのだが、大きめの椎茸が1カゴ2ユーロ程度ではなかったか(記憶に自信なし)。 産地はどこだろう。 新鮮そうに見えたが空輸品の値段ではない気がするし、今どき中国からロシア経由で鉄道で運ぶのも難しかろう。椎茸原木は日本から輸出禁止なので、ドイツで中国産の菌床を使って作っているのだろうか。
そういえば、フランクフルトではゼンケンベルクの他にもう一つ目的があった。良さげなカトラリーの購入である。自分でも神経質だと思うが、ステンレスのカトラリーがどうにも金属臭くて苦手なのである。それで子どもの頃から愛用している陶器のスプーン一本で凌いでいたのだが、一本しかないので何しろ不便なのだ。金属でも臭くないというステンレス18-10のカトラリーがずっと欲しくて探していたのだが、カトラリーといえばヨーロッパである(知らんけど)。きっとドイツであればマイスター品質の素敵なカトラリーがあるに違いない。そう信じてニュルンベルク滞在中から探していたものの、何かピンとこない。もう大都会フランクフルトにかけるしかない。
中央駅近くのショッピングモールMyZeil(Googleマップ)の台所用品店「LOREY」に行き、カトラリーセットを物色すると、MEPRAというイタリアのメーカーのカトラリーセットに一目惚れしてしまった。ドイツでイタリア製品を買って日本に持ち帰るのもバカバカしいと思わないでもなかったが(枢軸な感じ)、マエストロデザインな洒落た形であるのに、手にしっくり馴染む。ヘアライン仕上げで傷を気にせずガシガシ使えるのも良い。どうやら日本では代理店が強気な値段で販売しているらしいし、セールと免税で無印良品並の価格になるのでエイヤで購入した。ナイフ、フォーク各6セットに、大小のスプーンが6本ずつ。まあまあな重さだが満足である。
ホテル最寄りのスーパーで、自宅用にチーズとバター、プンパーニッケル(諸説あるが、オナラをするニコラウスというのが語源らしい繊維の多いパン)を購入し、ホテルにチェックイン。フロントマンはハネムーンで日本半周したらしく、私のパスポートの本籍地を見て「今度はそっち側に行きたい」と言っていた。地名だけでわかるとはなかなか通である。
驚くことに、エレベーターに階数ボタンがない。カードキーで認証すると、泊まっている階に直行するシステムである。セキュリティも高いし、何やらSFチックで萌える。
部屋に入りトコジラミチェックまでは終えたが、どうにも体調が悪い。頭が重く、食欲もない。おまけに足も疲れて歩きたくないので夕飯は朝におまけしてもらったパンと余ったラドラーで済ませた。(健康な夫には足りなかったらしく、非難がましい目で睨まれた。)

ホテルのベッド(トコジラミチェック前)、ダブルでも布団が2つに分かれているのが非常に良い。
しかし明日は帰国である。ひとまずシャワーを浴びて再起動、荷造りを始めた。この日買ったカトラリーに加えて、バンベルクで買ったビール、ニュルンベルクで免税範囲ギリギリまで買い足したワイン、そしてバター、チーズ、ウイーンで買ったモーツァルトクーゲルなど地味に重いものが多い。スーツケース2つにパズルのように詰め込むと、今まで経験したことがないほど重くなった。
1月4日、最終日、帰国の途につく
朝、フロントでチェックアウトしようとすると、予約時に支払ったはずのホテル料金が未払いと言われる。担当のスタッフは新人のようで、いちいち自信がなさそうなくせに「支払われていない」という一点についてはやたら強気である。それ以上調べようともしないし埒が明かない。隣で別の客の応対をしていた日本人スタッフが見かねて代わりにテキパキ確認し、支払い済であることを確認してくれた。なんとかなってよかったものの、結局15分以上ロスした。重いスーツケースを転がして走ったが、乗りたかった電車は逃してしまった。もう3時間前に空港に到着するのは無理である。
エアポートエクスプレスの車窓からは畑つきの小綺麗な小屋が多数見えた。貧困層の家にしては整然としている。Wikipedia先生によればどうも「クラインガルテン」という趣味の園芸のための別荘らしい。ドイツ東部ではソ連風にダーチャと呼ばれるそうである。わざわざ出かけて行って植物の世話をするなんて、なかなかマメな趣味だ。
そうしてやっと空港駅に着いたと思いきや、エアチャイナのカウンターがやたらに遠い。カウンターまで向かう途中で警官2人に両脇を抱えられて連行されていく薄汚い若者を見かけた。しゅんとして大人しく運ばれてはいたが、一体何をしたのだろう。
方向を間違えているのかと不安になる頃にようやくカウンターが見えてきた。チェックインすると、予想外にスーツケースは15キロしかない。夫のスーツケースも16キロ程度だったと思う。すわ追加料金かと思っていたが余裕で範囲内であった。カトラリーの免税手続きのため、スーツケースを返してもらって税関に預け、グローバルブルーの免税カウンターに向かったが、爆買いアラブ人グループが束になったレシートを抱えて長蛇の列を作っている。時間もないので、その辺に転がっていた封筒に免税書類を入れて『グローバルブルー」と書いてあるポストに投函した(実はまだ還付金が入金されていないので少し心配)。
セキュリティチェックも混雑しており、その上係員も乗客もみんながモタモタしている。なぜ自分の番になってからコートを脱ぎ始めるのか。なぜ何をバッグから出す必要があるのか把握していないのか。なぜ今になってスーツケースをゴソゴソ探し始めるのか!その辺考えてパッキングしておいて欲しい。
イライラしながらも、ようやく自分の番になり、金属探知機を通り抜けて女性係員に念入りにボディチェックを受けると出国審査である。こちらも利用者に対して圧倒的にカウンターが足りてない。四方から人が集まって来るため、綺麗な列にならずに団子になってしまう。空港係員が拡声器で「止まらないで!列を作って歩き続けて!」と繰り返すと、団子がノロノロと動く。と、1人の老紳士が係員に向かって「やれやれワシらは羊かね?」と嘆く。確かにまるで牧羊犬に追い立てられる羊のよう。 愉快な例えだ。老紳士としても会心のジョークだった様子で係員をチラッと見たが、疲れた顔の係員は全く相手にしない。老紳士はさも残念そうに「やれやれ、それでは羊のように従おうじゃないか」と呟き、それきり黙り込んだ。老紳士の英語は英国訛りに聞こえたし(自信なし)、いかにも英国人の好きそうな皮肉だし(偏見)、濃紺のパスポートを持っていた(観察事実)のできっと英国人であろう(推測)。そういえばフランクフルト空港は規模の割に乗り入れ路線が多くパンク寸前ということである。なるほど確かにいちいち容量が足りていない。正直もう二度と使いたくない。
それでもラウンジに立ち寄る時間を少しは確保できた。朝食を取ってないので腹ペコである。プレッツェルとハンバーグ様の美味しい謎肉とホウレン草、そして美味しいクッキーをかき込む。ウォーターサーバーの水が冷たくて柔らかくて非常に美味しかった。機内用にボトルにも詰める。
搭乗開始が遅延したため、ゲートでしばらく待たされたが、夫がタバコを吸いに行って戻る頃には搭乗開始した。やっとこ飛行機に乗り込むといやに寒い。なんと後ろのドアが開きっぱなしになっている。換気だろうか、よくわからない。結局出発直前まで開いていた。最後までドイツは寒いのである。

機内食はビーフのグラーシュ。パンが美味しい。
途中、ラウンジで汲んできた水がなくなったのでギャレーでCAに水を頼んだら、お湯が入ってきた。温めるエネルギー分だけ得した気分である。
クソ暑い深圳空港に到着すると、ちょっとトライポフォビア的にはキツイデザインである(当然写真など取ってない)。ただの乗り継ぎでもパスポートチェットとセキュリティチェックがあるが、シゴデキ中国人がテキパキ捌いてくれるのでストレスフリー。ラウンジでシャワーを浴び、ダラダラと時間を潰して羽田行きの深圳航空に搭乗した。深圳航空は初めて乗ったが、エアチャイナよりどことなく現代的な感じがした。
終わり。
おまけ。
チェックインカウンターの計量値に違和感があったので、家の体重計で測ったところ、18キロと19キロであった。これはきっと家の体重計が3キロずれているのだ。だから私の体重も、表示よりも3キロ痩せているはずだ(という現実逃避)。