日日是女子日

細かすぎて役に立たない旅行ガイド

旅の終着地、パリ編

2019年5月4日、パリへ。

タリスでケルンを後にした我々は、ドイツのあまりの居心地の良さにより、すっかり旅を舐めきっていた。

「やっぱり最初にインドとかロシアに行っちゃうとさぁ、先進ヨーロッパ諸国はパンチがないよねー。」などとわかったようなことを言い合い、おフランスなどもはや消化試合くらいの勢いである。

 

そうして緊張感の抜けきった我々を乗せて、赤い高速列車はヌルリとパリ北駅に停車した。

電車を降り、やれやれ隣のDQN同胞ともおさらばだぜ、などと呑気に考えながらプラットフォームに降り立つと、何やら地面が汚い。何かのシミやら吸殻などで不潔なのである。チリ一つなかったドイツとは大違い。

嫌な予感を抑えつつ地下鉄駅に向かった我々は、そこで「どこのヨハネスブルクか」と思わんばかりの治安の悪さに驚愕した。無論、事前に北駅周辺の治安が悪いことは調べてはいたのだが、何しろ完全に油断していたのである。

とにかく人々の柄が悪い。

タダ乗りするために、自動改札で前の人にピッタリとついて通り抜けようとする輩や、それどころか堂々と自動改札を飛び越える輩までいる。

このような犯罪ともつかないような軽犯罪は氷山の一角に違いなく、確実に、もっと悪いことをしている輩もウジャウジャいるはずだ。ゴキブリは、1匹見かけたら30匹は隠れているのだ。

スーツケースを引き、券売機を探して辺りを見渡す我々はいかにも旅行者然としており、肉食獣が闊歩するサバンナに放たれた家畜のようなものである。動揺を抑えつつ券売機で10枚綴りの回数券を購入し、後方に警戒しながら自動改札を通り抜けた。

 

プラットフォームは地下にある。そのため、地下鉄に乗るには地下に降りなければならないのだが、正直、階段の前で「イヤだ、降りたくない」と思った。階段は不潔で、降りた先も薄暗く、ヤバそうな気配がする。

実際プラットフォームに降りると、そこにいたヤバそうな白人たち、おっかない黒人たちが皆さりげなくこちらを見た(気がした)のでギョッとした。我々のような呑気な黄色人種は1人もいない。

なんでこんなところに来ちゃったかな。居心地の悪い気持ちを吹っ切るように地下鉄4号線に乗る。ふと向かいに立つ移民らしい男性が、こちらを値踏みする様に凝視しているのに気づいた。こちらが目を合わせてもそらさない。大丈夫、我々は貧乏臭い服を着ている。カモにはならないはずだ。

そのうち、急に宿周辺の治安が心配になってきた。北駅から地下鉄で1本で行けるモンパルナスに宿をとったのだ。ネットでは治安が良いとの評判だったが、地下鉄で16駅越えたくらいで変わるものだろうか。東横線は端から端まで行ったところでシャレオツラインであり、路線を変えない限り雰囲気など変わらないのではないか。

しかし、幸い数駅過ぎると急に乗客の様子が変わってきた。空気が緩み、なんとなくお上品な感じの人々が増えていく。まだ油断はできないが、ヤマは越えたらしい。女子1人旅で来てたら泣くところであった。

 

モンパルナス駅周辺は、無駄にたまろっている輩がいるわけでもなく、評判通り割と治安が良さそうである。歩道にはヒビが入り、吸殻などで散らかってはいるのだが。

宿はホテル・コンコルド・モンパルナス。空港行きのバス「Le Bus Direct」のバス停の目の前にある。

 

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ホテルのエレベーター前には縞々のペンちゃんが。

 

緊張して疲れたのか、腹が減ってきた。コスパ最高、とアタリをつけていたブイヨン・シャルティエへ。

ドアを開けると、身長2メートルほど、体重は100 キロを優に超えているであろう強面の紳士が颯爽とお出迎え。ガードマンも兼ねているのだろう。評判通りの人気で、店では既に数人が順番待ちしていた。列の後ろに並ぶようデカい紳士に指示され、転がっていた新聞を眺めつつ順番を待った(もちろん仏字新聞、もちろん読めない)。既に夜10時も近いのに我々の後からもどんどん人が入ってくる。パリっ子は宵っパリなのである(パリだけに!)

 

それほど待たずに華奢なギャルソンが我々を席に案内してくれた。狭い店内はかなり活気があり、パリッと制服を着こなした(パリだけに!)ギャルソンがキビキビと優雅に動き回る様は、正直これまで行ったどこの国にもなかった感じである。料理のサーブも早く、サービスが行き届いている。さすがは本場。さすがはパリ。

 

注文は、テーブルクロス代わりのザラ紙に書かれるシステムで、端末でポチポチやられるより色気がある。こういうのんで良いのだ。

 

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字が汚いのもソレっぽい。

 

注文したのは、夫は前菜にパテ・ド・カンパーニュ(写真なし)、メインにカモのコンフィ、デザートにババ。私は前菜にキャロット・ラペ、メインはステーキフリット(懲りずに肉と芋再び)、デザートはモンブランである。合わせるのはピノ・ノワールを使った一応フランス産の謎ワイン。値段なりにカジュアルな感じではあるが、どれも旨い。なんというか、その値段で可能な範囲で、ものすごくちゃんと作っている味である。美味しくないと商売できない土地で賑わっているだけのことはある。

すっかり満足してホテルに帰った。

 

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カモ。美味しかったそうです。


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ステーキフリット。ドイツと違い、肉が程よい大きさ!普通に美味。


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ババ 。要はラムを染み込ませたブリオッシュ。酔っ払いそうだが旨い。

 

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モンブラン。なんとマロンペーストにホイップクリームを載せただけという、硬派すぎるデザートである。

 

 

翌日は憧れのベルサイユへ。

朝食はカフェでクロワッサンとオレンジジュースを。クロワッサンはまあ旨いんだけど、最近このくらいなら日本でも食べられる味である。日本のパン職人の努力を思う。胸熱。

 

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クロワッサン。まあおいしいけども。

 

そうしてノンビリ朝食を食べていたら、うっかり乗るはずの電車を逃し、11時からの優先入場に30分ほど遅刻してしまった。

普通に並べば2時間はかかるところを待ち時間なしで入るために1人40ユーロも払っている。メールには「遅れたから無効」とも読める記載はあったが、ここはなんとかゴリ押さなくてはならない。もちろん遅れた我々が悪いことなど承知だが、例えば時間を守らないことで有名な某国の観光客など絶対に遅刻してるに違いなく、うまいこと次の回に紛れ込ませてくれるはず、という目論見もあった。

優先入場の窓口に行き、日本人的に「遅れてごめんなさい」と言いたくなるところをグッと堪え、「時間通り来ましたけど?」という顔でシレッとバウチャーを出す。窓口のオネエさんにフランス訛りの英語でごちゃごちゃ言われるも「?」という顔をした。断るのも面倒臭えなと思わせようという魂胆である。

すると、日本語を話せるお姉ちゃんがやってきて次の回に入れてくれると言う。「これが、ベルサイユ・シロとベルサイユ・ニワのニュウジョウケンです。11時45分にあそこの柱の前にいてください。」ベルサイユ宮殿と庭園ね、フムフム。

ここらで尿意が限界に近づいたので、隣のマックでトイレを借りる。もちろんタダでトイレを使わせてくれるような気前の良さはない。何か購入するとトイレのロック解除コードがもらえるのである。周辺には他にトイレはなく、ものすごく儲かりそうなシステムである。あまりの注文の多さに店員が全然追いついておらず、結局我々は購入したはずのカフェラテを受け取る前に集合時間が来てしまったので諦めた。まあトイレ代である。別に良い。

集合場所で待っていると、名簿を持った陽気な女子が現れ出欠を取り始めた。我々の名前を呼ばれた際、本当にウッカリと指揃えて手を挙げてしまったのはウッカリ極まりない愚行であった。

ズラリと並ぶ観光客を尻目に優先レーンから入場した。セキュリティチェックがあるので、優先レーンであっても30分ほどは待たされた。ベルサイユ恐るべし。

中に入ると音声ガイドを手渡され、後は完全自由行動である。絢爛豪華ではあるだが、既にエルミタージュで麻痺しているのでそれほどの感動はなかった。まあ、装飾や調度品はエルミタージュよりも洗練されて垢抜けてるのは確かである。たしかに金はかかっている。こりゃフランス革命も起きるわ。

仕方のないことではあるが、何しろ激混みなのが興醒めではある。とはいえ、かなり広いので入口から遠いトリアノンまで行けばかなり空いてくる。

庭園では、小銃を構えた軍人が数人グループでパトロールしており、中には女性も1人いた。いわば現代のオスカル様である。麗しい。

 

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鏡の間。シャンデリアを見ると「地震来たら危ないな」とつい思ってしまうワタクシである。


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教科書で見たナポレオンの戴冠式のアレ。思った以上に大きく、壁一面コレである。


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リシュリュー卿。三銃士の悪役で有名な。


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ベルサイユ・ニワ


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噴水には羽根を切られた飛ばない白鳥が。なんかソレっぽい。


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途中で腹が減ったのでパニーニを。

 

 

さて、ベルサイユを満喫した我々は、パリに戻って散歩である。

歩き疲れて入ったのは、マレ地区のブルゴーニュ料理屋、オ・ブルギニオン・ド・マレ(と読むのか)である。

夫は牡蠣、アンドゥイエット(豚の小腸にモツ類を詰めたもの)、ババ 、私はウフ・アン・ムーレット(赤ワインのソースを使ったポーチドエッグ)、ブッフ・ブルギニオン(牛肉のブルゴーニュ煮込み)、デザートにチョコレートシューを注文した。

前日の店よりもやや高価であり、味も洗練されていた。ここでもギャルソンの優雅さは健在である。昔のフランス旅行といえば、日本人はレストランで差別されて相手にされない等の話をよく聞いたものだが、全くそんなことはない。親切丁寧て非常に感じの良いサービスである。あれだけ移民が増えてくると、観光で来ている大人しい日本人になど構っている余裕がないのだろう。

 

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前菜の牡蠣。量が少なかったらしい。


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ウフ・アン・ムーレット。赤ワインの旨味が米に絶対合わない感じで美味。(もちろんパンに超合う)


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アンドゥイエット。ホルモン好きにはたまらないヤツ。


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ブルゴーニュ煮込み。見た目よりあっさりしており、優しい味。赤ワイン味が前菜と被ったが、注文する価値はあった。


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ババ 。盛り付けが洒落ている。

 

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シュー。チョコレートソースが激甘。本気で甘い。

 

お腹も心も満たされた我々は、腹ごなしにセーヌ川沿いを散歩した。景色が贅沢である。


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木造部分が焼失したノートルダム大聖堂


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映画「ポンヌフの恋人」で有名なポン・ヌフ。和訳すれば新橋。


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ルーブルのアレ。一応通りかかったので。

 

ホテルに戻るべく、地下鉄駅に入ると、深緑の制服を着たガチムチのおじさんが愛想よく「ボンソワ〜」と話しかけてきた。制服を着ているとはいえ、着こなしがだらしなく(上着を半分脱ぎかけていた)、何か怪しいので無視すると今度はドスの効いた声で「ボン!ソワッ!」とこちらを睨みながら怒鳴られた。そして切符を見せろという。要は、あまりに無賃乗車が多いため、検札をしていたのだ。「ボンソワ」とはフランス語で「こんばんは」の意味らしいが、こういう使い方もあるんだな、と妙に関心した。

 

 

さあ帰るぞ日本へ。

翌朝、ホテル前から空港シャトルバスに乗り込んだ。疲れが出たのか眠りこけてしまい、あまり覚えていない。

 

空港に着き、アエロフロートのチェックインカウンターに向かった。安かったのでモスクワ経由のチケットを買っていたのである。

しかし、出発3時間前にも関わらずオープンしていない。カウンターにスタッフはいるのだが、ずっと端末を操作していたり、上司と思われる男性と話し込んでいたり、ラチが開かない感じである。

仕方なくベンチに座って様子を見ていると「日本の方ですか?」と男性に話しかけられた。日本から娘に会いに来ており、モスクワ経由で帰るという。と、男性は気になることを言い出した。

「ついてないですね、モスクワで事故なんて。」

聞けば、我々が経由地として向かう予定だったモスクワ、シェレメチェボ空港で飛行機の炎上事故があり、空港が封鎖されているとのことであった。なんとも痛ましい事故である。亡くなられた方々のご冥福をお祈りする。(大部分がロシア正教徒か無宗教だろうけど)

しかし、我々は今日中に帰国しなければ仕事に支障が出る。とりあえず、まだ疎らにしか人のいないチェックインカウンターに並んでみることにした。しばらくしてオープンしたが、そこで得られたのは「飛行機がキャンセルになったので、チケットカウンターで手続きをしてください」という案内のみであった。

こういう時、順番は早いほど良い。チケットカウンターにダッシュし、前から2番目の位置をゲットした。それでも当日の便には空きがなく、翌日のフライトになってしまった。

チケットカウンターの疲れた顔をした係員は、深い溜息を何度も突きながら、空港近くのINNSIDEという紛らわしい名前のホテルを取ってくれた。ランチ、ディナー、朝食付きである。

ランチはブッフェ式で、鶏肉(パサパサ)、芋、パンとブラウニーのみという粗末さ。しかもコーヒーマシンが故障中で、飲み物はタップウォーターのみである。ちなみに、ディナーも全く同じラインナップであった。タダで取ってもらったので文句は言えないが、普通にお金を払って泊まっている客は何も文句を言わないのだろうか。

暇なので空港に戻り、ターミナル1をグルグルしたあとはホテルバーでビールを飲みまくった。

夜中、Skypeで会社に電話をかけ、もう1日休みをもらった。優しい上司は、気をつけて帰ってきてくださいね、と言ってくれた。

翌朝は同じくブッフェ式の朝食ではあったが、チキン、芋、パンに加えて品数も多く初めて満足に食事を取れた。思うに、朝食だけ真面目に作り、昼夜は朝の残り物で切り盛りしていたのだろう。企業努力というやつだ。

なんとなくモヤモヤしながら、再び空港へむかった。

 

 

今度こそ帰るぞ日本へ。
ところで振り分けられたはエールフランスの直行便、しかも席はプレミアムエコノミーである。もちろん事故は痛ましいのだが、不謹慎ながらも少しラッキーと思ってしまう。

出国審査を済ませて搭乗待合室に行くと、見た感じ半分以上が日本人である。そのせいか、搭乗開始のアナウンスがなぜか日本語でしか流れなかった。ヨーロッパ人はざわついたが、日本人の様子を見て搭乗開始を悟ったらしく、すぐに大人しくなった。フランスの空港で日本語のアナウンスのみ、というのも妙な話だが、あれはミスだったのだろうか。

ふと見ると、着物を着て長い髪をチョンマゲにした極東アジア系の男性が目に付いた。外人連中に「オー、サムライボーイ!」などと言われて愛想を振りまいており、格好の割には日本人とは思えないコミュニケーション能力である。とはいえ、着物なんて着るのは日本人くらいだろうから日本人なのだろうとは思うが、それにしても日本国内ですら成人の日くらいにしか見かけない中、わざわざシャルルドゴールでキモノを着るというのも何某かの意図を感じざるを得ない。間違いなく、外人に「オー、サムライ!クール!」と言って欲しいだけの構ってちゃんなのだろう。ダッセ。(単にコミュ力の高いこの男性に対するコミュ障のヒガミである。)

 

さて、グヌヌと僻みながら優先搭乗すると、さすがプレエコ、座席がとても広い。座って後から入ってくる人々を眺めていると、何故か日本人女性に「ベレー帽、ボーダーシャツ、フレアスカート、好ましくはバレエシューズ」みたいな格好の方が多いことに気がついた。あれはなんか元ネタあるのだろうか。日本人以外にそういう格好の人は見かけなかったのだが。

さて、搭乗案内中に流れてきた日本語アナウンスによれば、飛行機内には英語、フランス語以外に、ロシア語、スペイン語ポルトガル語を話せる乗務員が乗っているとのこと。要は中国語以外の国連公用語と、日本語、ポルトガル語である。なんだそれ。すげえなエールフランス

離陸前にエレガントだのシックだの、お花畑女子がイメージしそうなフランス的ワーズを連呼するセイフティビデオを見る。ビデオには白人女性4人にアジア系女性1人、アフリカ系女性1人と、それなりに人種のバランスに配慮しているのが印象的であった。

そうして、我らがエールフランス機は遙かな日本に向けて飛び立った。

 

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ウェルカム的なスナック。おいしいプリッツという感じ。


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機内昼飯。エールフランスではエコでもシャンパンを出してくれるのだ!


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機内夜飯(というか日本時間では朝飯)。カトラリーが木というところに、EU的なプラスティック問題への取り組み姿勢が垣間見られる。

 

そうして、12日間の日程を終え、無事日本の地を踏むことが出来た。

到着ロビーで例のサムライボーイを見かけたが、飛行機で着替えたらしく、洋服になっていた。

やっぱり構ってちゃんじゃねえか!