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台風22号在広州

フィリピンで死者を出し、香港を通って広東省に再上陸した台風22号には、報道されていたほどの勢力は残っていなかった。広州市街では雨も風も拍子抜けなくらいで、実際、純粋に台風による被害はそれほどなかったようである。

純粋に、台風だけによる被害は。

 

問題は、台風通過後に起きた。

午後6時、風が収まった後も雨はむしろ強まり、まさにバケツをひっくり返したような様相を呈している。それを見ながらバルコニーで煙草を吸っていた夫が、血相を変えて私を呼ぶ。

ホテル正面の道路に、濁った水が大量に流れこんできたのである。

 

水位の上昇は早く、あっ、と思ううちに建物の1階部分まで浸水した。

我々のホテルは沙面島の北側にあり、すぐ目の前に用水路が流れている。それが氾濫したのか、それとも排水溝が閉塞したのか、詳細はわからない。

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男性が、膝のすぐ下まで水に浸かりながら歩いてくる。しばらく携帯電話で何かを怒鳴っていたが、やがて近くの建物に入っていった。

浸水前から路上駐車していたSUVはバンパーまで水が達して、電気系統が故障したらしくヘッドランプがつきっぱなしである。

 

呆気に取られて見ていると、突然、近くの街路樹が軋むような音を響かせて倒れ、向かいの建物に覆い被さった。元はホテルの屋上に届くほどの大木である。木の根ごとひっくり返って歩道の葺石が持ち上がり、そこだけ水面から顔を出していた。

 

本当は台風が過ぎたら夕食を食べに出ようと思っていたのだが、さすがに危険を感じ、ルームサービスを取ることに決めた。

メニューを決めてフロントに電話をすると、インスタントラーメンが一つしかないと言う。仕方がないのでそれを持ってきてもらい、電気ポットに水を入れたところで突然真っ暗になった。

 

遂に停電したのだ。夜8時過ぎのことである。

通り向こうの建物は、コウコウと灯りがともっており、停電したのは沙面島だけなのだろう。冷房が必要ないくらいに気温が低かったことだけは幸いだった。

 

その後、装備を整えた人々が通りに集まってきて、大声で会話しながらパトロールを始めたが、我々には何を言っているのかわからない。

良くなりそうなのか、それとも打つ手がないのか、先が読めず、不安が募る。

 

9時になり、10時を過ぎても復旧する様子はない。空腹を抱え、言葉もいまいち通じない外国で、辺りが水没した真っ暗なホテルにいると、とても気が滅入った。

帰国予定は翌日だった。おそらく飛行機が飛ばないことはないだろう。しかし、空港に行くためには、スーツケースを担いで水没した道路を徒歩で抜けなければならない。水は濁っており、いかにも不衛生な感じがした。

 

深夜0時、何か対策を打ったらしく、少しずつ水位が下がってきた。

そして、午前4時過ぎには完全に水が引いた。ひとまず水に浸からなくても済んだのだ。

 

ほっとして、うとうとしていると、突然瞼の外が明るくなった。電気が復旧し、スイッチを入れたままだった照明がついたのである。

時計をみると、朝6時40分であった。

 

ほっとするより先に、腹が減った。

いそいそとシャワーを浴び、準備を整え、朝食、兼昨夜の夕食を取りに外に出た。

 

天気は曇ながら、いつのまにか蒸し暑さが戻っていた。

人々は、ぐっしょりと水を吸った荷物を運び出したり、モップで床を掃除したり、忙しそうに動き回っていた。

 

街には、開放感と妙な活気があった。

それを見て、私は初めてほっと一息ついた。

 

続く。