日日是女子日

細かすぎて役に立たない旅行ガイド

美食の都リヨン、その3

年末年始リヨン旅行の続き

 

この日の第一のミッションは、絵葉書を出すことである。ここでも度々書いているが、自宅に絵葉書を出すことは旅の楽しみの一つだ。郵便局もお国柄が出ていて楽しいのである。ちなみに「技術の進歩により世界と一瞬で繋がれる21世紀にあっても手書きの温かみが(略)」などというインターネット黎明期のような気持ちは全くない。自分で自分に絵葉書を書いて「温かみが〜」なんて馬鹿馬鹿しいにも程がある。

 

さて、便利なことにホテルの隣がリヨン中央郵便局であった。前回パリに行ったときにも絵葉書は出したので、どうすれば良いかはわかっている。郵便局にある黄色い自動販売機で切手を買い、絵葉書に貼って出すだけである。自販機の使い方は簡単、重量と行き先を選んで、表示された料金を払うだけ。うっかり行き先にoverseasを選びそうになるが、ここはinternationalが正解だ。overseasは所謂フランス海外領土のことで、敗戦国の人間としては新鮮に感じる。切手をペッと貼ってパッとポストに投函して、難なくミッション・コンプリート。

 

そして第二のミッション。胃薬である。前日と同じドラッグストアでやっと購入できたのは、ヨーロッパでの胃の不快感に効くという「水で溶かして飲む錠剤みたいやつ」、そして万が一これが効かなかった時のために、ネットでオススメされていたガビスコンである。「水で溶かして飲む(略)」の名称を知らなかったものの、それらしいものが何種類か売っていたので1番安かった「オキシボルジン」とやら

を選んだ。

ビスコンは有効成分はアルギン酸ナトリウム、重曹が主成分の普通の胃薬である。制酸と胃粘膜保護が効能のようだ。一方、オキシボルジンは硫酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムといった瀉下?制酸?成分と謎成分「ボルジン」を含んでいる。なんでも、ボルジンとは「ボルド葉」とやらに含まれるアルカロイドであり、胆汁分泌促進作用があるらしい。胃が重い原因は脂質の摂りすぎであろうから、我々に足りないのはまさに胆汁、真っ先に飲むべき薬は「オキシボルジン」の方であろう。ちなみに、以上は単にネットの海をサーフィンして得た情報を素人なりに組み合わせたものである。私に薬学の知識は全くないので真偽に責任は持てない。

 

f:id:suzpen:20200809145118j:image

これが例の「オキシボルジン」、探し求めた「水で溶かして飲む錠剤みたいやつ」である。

 

「ボルジン」という強力な助っ人も入手したところで、我々はまた脂っこい料理を食べることにした。今回の店は

Cafe Comptoir Abelである。開店時間まで30分ほどあったので、周辺を無目的に散策した。運動して準備万端である。

入ってみると店内は意外に広い。感じの良いウェイトレスに2階席に通された。メニューを熟読し、迷った末、私は前菜にアーティチョークとフォアグラのサラダ、夫はザリガニのサラダを頼み、メインは2人ともクネルにした。ちなみに、クネルとはリヨン名物カワカマスのハンペンである。そしてpotでロゼと「オキシボルジン」用のタップウォーターを注文した。

コップに水を注ぎ「オキシボルジン」のタブレットを投入すると、シュワシュワと音を立てて瞬く間に溶けていった。タブレット自体はラムネ菓子の「ハイレモン」のような見た目である。水に溶かしたソレは、駄菓子にあった粉末のメロンソーダ(今もあるんだろうか)のような、あの嘘臭い炭酸風味がまず舌を襲い、次いでポカリを薄くして人口甘味料で甘さをつけたような、体に良くなさそうな味が残る。日本によくあるミント風味の胃薬のような清涼感は全くない。

しかし、飲んだ後なんとなく胃が軽くなってきた。そんなすぐ効くか?と思わないでもなかったが、気持ちよく食べられるのならこの際プラシーボでも構うまい。

 

さて、ここAbelはネットの皆様からの評判も高く、絶対に行きたい!と公式ページで事前予約をしておいたのだが、料理はいずれも期待を裏切らぬ良い出来であった。料理人がキッチリ拘っているのだろう、食材の味がピンッとしっかり立っていて、スタンダードな味ながら確実に美味である。味付けが良いというより腕が良いという感じ。ワインも進み、途中でpotでガメイを追加した。

 

f:id:suzpen:20200809143625j:image

アーティチョークとフォアグラのサラダ。フォアグラの下に大きなアーティチョークが隠れている。


f:id:suzpen:20200809143619j:image

ザリガニのサラダ。ザリガニはこの店の名物らしい。


f:id:suzpen:20200809143629j:image

クネル。しっとりしていて、フワフワ。こんなに旨いものだわったとは!

 

軽い味付けではなかったが、「オキシボルジン」のおかげか2品食べ終わっても腹に余裕があった。この余裕はデザートで埋めるしかない。夫はババ、私は「シャルトリューズ・アイスクリーム」なる酒臭そうなものを注文した。シャルトリューズは言わずと知れた薬草リキュールであり、養命酒的に胃腸に効きそうである。てっきりシャルトリューズをかけたアイスクリームかと思っていたら、ガラス容器に入った素っ気ないシロモノが出てきた。一口食べればそれはシャルトリューズが大量に混ぜ込まれたバニラアイスクリームで、予想以上に酒臭かった。下戸の人はスプーン一杯で真っ赤になるだろう。ワインで気持ち良く酔っていた上にコレで、一気に酔いが回ってしまった。美味しかったがパンチが効きすぎだ(長靴いっぱい食べたいよ)。ちなみに、夫が頼んだババにも「さあ、好きなだけおかけください」と言わんばかりにラムが1瓶ついてきた。デザートが酒飲み仕様なのが、酒飲み的に良いと思う。


f:id:suzpen:20200809143615j:image

シャルトリューズ・アイスクリーム。酔っ払う。


f:id:suzpen:20200809143622j:image

ババ。ラムをビシャビシャかけ放題。

 

燃料(酒)補給したところでリヨンの街をさらに歩いた。カロリーを消費しないと、この先おいしく食べられない。全ては食べるために。日本で「あの時アレを食べればよかったのに!」と後悔しないために。

街を歩いていた気になったのは、地面に落ちている犬糞の多さである。歩道の真ん中に転がっているため、地面を見ながら歩かないと踏んでしまう。見れば、リヨンっ子は気にせずズンズン進んで躊躇なく犬糞を踏んでいる。犬糞が靴底につき、スタンプよろしく被害を拡大させるのである。なぜなのか!

 

散歩の途中でリヨン美術館も冷やかした。私は絵画に全く興味はないし、どんな名作でも「ふーん」くらいにしか思わないが、せっかく本場おフランスに来ているので、気まぐれに入ってみたのである。やはり「ふーん」以上の感想は持てなかったが、有名な作品が多いらしいのでわかる人には面白いのかもしれない。なお、私は知識もないくせにオーディオガイドも借りない主義である。イラチなもので、説明なんぞ聞いていられないのだ。

 

f:id:suzpen:20200809113645j:image

ブールデル「弓を引くヘラクレス」どこかで見た気がしたが、箱根の彫刻の森美術館にもあるらしい。


リヨン美術館を出て、お土産にショコラティエでチョコレートを買い込んだ。Philippe AbelSève Maîtreの2件で、前者の方が現代的な感じで私は好みであった。後者も美味しいが、やや保守的。

そして、夕食にローストチキンとサラダ、ビールを調達してホテルに戻った。何も昼、夜両方ともレストランでスリーコースを平らげる必要はないのだと(今さら)気づいたのだ。チキンは消化に良いので疲れた胃にも優しい。野菜も一緒に食べれば、さらに優しさアップに違いない(なんとなく)。

 

f:id:suzpen:20200816193403j:image

左から、チキンの添え物の芋、チキン(毟った後)、サラダ。芋が謎に日本人好みな味。チキンは別に日本で食べるのとそうは違わなかった。

 

続く。

 

おまけ。

リヨンはパンの焼きがどの店もけっこうキツかった。表面が焦げるくらいカリッカリに焼いており、やや焦げくさいのがリヨン流のようだ(知らんけど)。好き嫌いが分かれそうだが、私は好きである。