広島
リヨン旅行記の途中だが、この前行った広島がとても良かったので、その模様をお送りする。
今年の2月11日、建国記念の日は火曜日であり、月曜に休みを取れば4連休である。年が明ける前から、これは是非とも休みを取ってどこかに行きたいと計画を練っていた。年末にフランスに行ったばかりなのでなんとなく中国や台湾といった近場の海外か、国内旅行が良いような気はしたが、今ひとつ決め手に欠ける。
どこかに行きたい、といえばJALの「どこでもマイル」である。通常の半分のマイルで、自動で選ばれる4つの候補地のうち「どこかに」行けるという、行き先を決めきれない我々にピッタリのシステムである。JALのページを見てみると、徳島、高松、鹿児島、広島のどこかであった。徳島にある日本三大秘湯のひとつ「祖谷温泉」に行ってみたかったし、うどん県でうどん食べ歩きも素敵だし、指宿で埋まってみたいし、ああ広島ね、路面電車のある街は好きだし、最近お気に入りの富久長は広島だし、個人的には車はマツダ、野球は広島、お好み焼きは圧倒的に広島の方が好きだわ私。ということで、どこになっても楽しそうなので申し込んでみたところ、まんまと広島行きが決まったのである。広島は過去にもう2回くらい行ってるし、正直気分は鹿児島だったのだが、『この世界の片隅に』は名作だし、『ズッコケ3人組』で育ったし、定期的に平和資料館に行って平和への願いを新たにしなくてはならないし、広島になるべくしてなった気がしてくる。
それにしても、本当にあと少し何かが違っていれば、中国旅行にするところであった。新型コロナウイルスで亡くなられた方々のご冥福を祈ると共に、早く事態が収拾することを心から願う。
1日目、広島に飛ぶ。
さて、前置きが長くなった。広島旅行である。
ゆるゆると家を出て、13時20分羽田発のJA 261便に乗り込んだ。1時間ちょっとのフライトでやや不便な場所にある広島空港に着陸した。と、思ったら、あっという間に駐機場に着き、これまたあっという間にドアが開いた。地方空港は羽田ほど混雑していないとはいえ、他の空港では流石にもう少し時間がかかる気がするが、どうだろうか。
平和通行きの高速バスに乗り、予約しておいたオリエンタルホテルの前で下車。荷物を置いて散歩がてら夕食に出かけた。
夕食(野趣 拓)
向かったのはネットの住人からも高評価の野趣 拓である。
広電の土橋駅から歩いてすぐ、上品な店構えが見えてくる。引き戸を開けると、感じの良い店員さんがカウンターに通してくれた。店主も若くて気さくな感じで居心地が良い。
出てくる料理は全て繊細でセンスに溢れていた。8,000円のコースを注文したのだが、都内では絶対にこの値段では食べられない。きっと一品一品、すごい考え抜かれているんじゃないかな。
かけつけいっぱい、「山眠る」を常温で。華やかでフルーティ。我々女子供の好きな酒。
一緒に出してくれる水のグラスが薄張りなのがまた良し。
タコと菜の花のからしあえ。上の植物はノカンゾウ。タコが新鮮。
吸い流し。日置桜の熟成粕がこっくりとしていて、自家製ベーコンがちょっと洋風で、塩味が上品。具はゴボウと金時人参。ゴボウが太くて芋っぽい食感。上に載っているのはケールをパリパリに焼いたもので、美味い、もう一杯!という感じ。
日置桜の訳あり全米酒。渋い味。
ワカメの佃煮。お刺身をつけて食べて、と出されたが、これだけでも良い肴になった。
お造り、天然鯛と〆さば。上のワカメの佃煮と鯛がとても良く合い、マリアージュってこういうことよね、と。〆さばは表面をゆるく〆ており、生っぽい。好みである。
地御前の牡蠣フライ。ネギポン酢と一緒にいただく。実は私、牡蠣は苦手である。生臭くてドロッとしてて、死んだ気持ち悪い生き物の味がするのだ。
が、ペロリと平らげてしまった。ぴんっと新鮮で、生臭みもなく、プリプリとして美味しい生き物の味がした。これが地御前の牡蠣・・・!
ちなみに、添えてある白菜も山椒が効いて美味。
神雷の何だったかな・・・この辺りで酔っぱらい始めた。
コノワタの南禅寺蒸し。店で作った汲み上げ湯葉がアッツアツのトロトロ。湯葉でコノワタの生臭みがうまく丸められていた。
そろそろ広島の酒が飲みたいということで、竹鶴の純米酒、おにぎりの辛口純米。竹鶴はウイスキーのようなボリュームのある麹臭い酒で好きな人には本当にたまらない味である(私は大好き)。おにぎりも料理に合う感じではあるが、正直竹鶴のインパクトの前ではやや霞む。
安芸高田市の山で取れたイノシシ、味は塩麹。実はイノシシもあまり好きでなく、豚をさらに獣臭くした感じがオエーとなるのだが、このイノシシは全く臭くなかった。塩麹が良い働きをしたのかもしれないが、柔らかくて良い肉質であった。
昆布の佃煮と大根。昆布にこれまた山椒が効いていておいしい。
穴子、ゴボウと金時人参のごはん。ゆずの香りが楽しい。上の昆布の佃煮と合うこと合うこと。山椒と柚子って相性良いんだな。
写真はないが、味噌汁は揚げとフノリ。フノリはフワフワした食感で、今まで食べていたフノリとは全然違う。店主曰く、東日本とは種類が違うのかも?とのこと。
豆乳と白味噌の無名のデザート。「プリンでもないし、ババロワ?え?ババロワて!」みたいな感じで名前がないまま3年くらい出しているらしい。甘酒っぽいような、ちょっとミルキーな感じもあるような、説明が難しいのだがメチャクチャ美味い。美味い美味い騒いでいたら、店主がレシピを教えてくれた。作り方から考えてもババロワではないか。
一緒に出されたお茶が、ハーブティーのようなほっとする味で、聞けばハブ草茶とのこと。ハトムギ、玄米、月見草〜♪どくだみ、ハブ茶、プーアール♪のハブ茶である。
すっかり酔っぱらい、良い気持ちで店を出た。広島に行く時は、また必ず寄りたい店である。
夜食(八紘)
さて、心はすっかり満たされたのだが、腹には余裕がある。せっかく広島に来ているのだから、シメにお好み焼きを食べるべきであろう。
広電駅からホテルの帰りにある「八紘」で豚肉、イカ天、卵のお好み焼きを注文した。
茹でた麺を鉄板に広げてカリッカリに水分を飛ばすのが特徴的。麺のモチモチ感が全くなくなるので、飲んだ後のシメに最高である。ソースも少なめでちょうど良い塩梅。この後ケーキくらいなら食べられそうな軽さである。
デザート(recolter)
お好み焼きも食べてホテルに帰る途中、深夜にも関わらず営業しているケーキ屋を発見した。いそいそとティラミスを購入し、ホテルに持ち帰った。
ちなみに味はすごい普通。
2日目、原爆ドームで平和について考える。
前日にけっこう日本酒を飲んだので、チェックアウト時間ギリギリまでダラダラした。
ランチの店に向かう道すがら、食器屋に寄り道して鳥獣戯画の徳利とお猪口をゲット。広島で買う必然性のないものだが、一目惚れしてしまったのだ。
ランチ(アテスエ)
予約で満席、隠れ家的な人気店である。
シェフ1人サービス時々アシスタント1人の2人体制で16席の店内を悠々と回しており、放っておくだけの料理が多いのだが、野菜の使い方が洒落ていてとても華やか。極限まで省力化・最適化された仕事ぶりが見ていて楽しい。
右下から時計周りにフォアグラのフラン、ホタルイカのオムレツ、ワカサギのフリット。
カリフラワーのポタージュ。上にかかっているデュカというエジプトのスパイスがアクセントになっている。ずっとコンロ上に放置されていただけあって熱々。ややインドの香り。どんぶりいっぱい食べたい。
岩国のブランド鰆、菜の花と雑穀のリゾット。ブランドというだけあって鰆が美味しい。リゾットは見ていて不安になるレベルで放置されていたにも関わらず火の通り具合が絶妙で、熟練の技が光る。
前日のイノシシに続き、この日は安芸高田市の鹿。柔らかくて全く臭くない。こんなに美味しい鹿肉は食べたことがない。こちらもかなり放置されていたにも関わらず火の通り具合が絶妙(以下略)
醤油甘いソースが餅に合いそう。
マスカルポーネのムースとデコポンのシャーベット。シャーベットにも刺さっているココナッツ味の謎煎餅が謎に美味い。ANZACクッキーのような感じ。
紅茶。添えられたクマのクッキーが!アーモンドを抱えてる!か!わ!い!い!!
平和資料館と原爆ドーム
さて、広島に来たからには絶対に外せない。広島に来ておいてここに寄らないなど、非国民と罵られても文句は言えまい。
私は20年前に一度来たことがあったのだが、最近全面リニューアルされたらしく、印象が大きく違う。展示品自体には見覚えがあったが、より臨場感があり、淡々と事実を語るような展示方法に変わっていた。しかし、それがかえって心を抉られた。
さらに「被爆者」という一様なレッテルではなく、それぞれ1人1人のエピソードの紹介にかなりスペースを割いているのは以前と大きく違うところだろう。月並な表現だが、それまで私たちと同じように生きていた人たちが突然人生を奪われたという事実が押し迫って来てつらい。どうしたって自分や家族、友人に置き換えて考えてしまう。英語の解説もひとつひとつ丁寧に付けられており、読んで涙ぐむ外国の方も散見された。まともな感覚を持っていれば、ここに来ればどこの国の人であろうと同じ気持ちになるに違いない。
原爆ドーム。改めて人類の貴重な遺産である。合掌。
酒商山田、山カフェ
さて、平和な時代に生きる我々は、その幸せを噛みしめながら呑気に酒を飲むのだ。
八丁堀にある百貨店、福屋の斜向かいにあるタダモノでなく良い感じの酒屋、それが酒商山田(八丁堀店)である。八丁堀店には試飲スペース「山カフェ」が併設されており、美味しいお酒をいただける。ひとつ500円で半合くらい、別に安くはないのだが、なぜ有料試飲というものはこんなにも心ときめくのだろう。それにしても、やはり広島のお酒は美味しい。
一代弥山のm、賀茂金秀のSUITOH。
山カフェを出たその足で、翌日の朝食をゲットすべく「ワイルドマンベーグル」に向かうも、品切れのため閉店していた。さすが人気店。
夕食(かんらん車)
夜ごはんはお好み焼きである。有名店「かんらん車」で、焼いている途中でキャベツ部分のみを抜き出してひっくり返すことを特徴としている。読んでも何を言っているか全然わからないと思うが、店主のコテ捌きがすごすぎて、見ていてもよくわからない。店主の工夫の成果なのだろう、キャベツがぎゅっと甘かった。
この日、仕入れた食材よりも客が多く入ったらしく、我々が食べた時は本当に品切れギリギリであった。ベーグルは買えなかったが、ここの美味しいお好み焼きが食べられたのでヨシとする。
続く。
おまけ
かんらん車に向かう途中、どうしても我慢ができず、川沿いの公衆トイレをお借りした。お世辞にも綺麗とは言えない普通のトイレだったが、なんとこの公衆トイレ、被爆建物らしい。
正確には本川公衆便所といい、Wikipedia先生によれば、
とのことである。
資料館で見た被爆直後の広島に、急にリアルな広がりが加わって頭に入る。この中で被爆した方もいたかもしれない。あの悲惨なことが再び起きないよう願ってやまない。