カッコよすぎるジジババと至福の音楽「ブエナビスタソシアルクラブアディオス」レビュー
18年前。まだ高校生だった私は、渋いジャケットに惹かれて、1枚のCDを買った。
複雑だけど心地の良いリズム、少し哀愁を帯びた優しいボーカル。何を歌っているのかさっぱりわからなかったが、ガキの耳にも、カッコいいことだけはわかった。それから何度も繰り返し聞いた。
映画も見ようと思ったことは覚えているが、どうしただろう、結局見ていないような気がする。全然覚えていない。
その続編が先日公開されたブエナビスタソシアルクラブアディオスである。
公式ページの言葉を借りると、
あれから18年、グループによるステージでの活動に終止符を打つと決めた現メンバーが、“アディオス”世界ツアーを決行、ヴェンダース製作総指揮で最後の勇姿を収めた音楽ドキュメンタリーが完成した。(中略)苦労した子供の頃のエピソード、ミュージシャンとしての不遇時代から、大成功のあとの華々しい世界ツアーまでも追いかける。
まあ、そんな内容ではある。
だが、この文章を読んで想像したものとは少し違った気がする。何かしらを深く掘り下げたドキュメンタリーを期待して観ると失望するかもしれない。色々詰め込みすぎて内容がとっ散らかっているし、その割に人物描写が物足りないような印象を受けた。
が、しかし。そういうものは、この映画においては枝葉だろう。
とにかく渋いジジイとイカしたババアにシビれ、熱く美しい音楽に聴き惚れていればよろしい。すげえかっけーから、能書き垂れてないで聞いてみな、Don’t think, feel. そういうやつ。それで十分。以上!
とはいえ、それだけではあまりに雑なので、印象に残ったことを少し書こう。
まず、彼らが、まるで息を吸うように音楽を奏でていたこと。それがとても心地良かったこと。
ヴォーカルのオマーラが「歌うことは生きること」と言い、ギターのエリアデスが「体に音楽が流れている」と言うように、演奏技術や表現力といったものではなく、体に染みついて、溢れ出てきたものをそのまま演奏しているのだろう。バンドが楽しそうな時は私も楽しい気持ちになったし、オマーラが悲しみながら歌うシーンでは涙がこぼれた。キューバという土地のせいなのか、長年の経験のなせる技なのか。
また、彼らのCDが世界的に売れて、成功を収めていく下りも、サクセスストーリーという感じがゼロであることも印象に残った。
何しろメンバーのほとんどが老齢で、杖なしでは歩くこともままならないメンバーすらいる。ツアーにバンド付の医者(!)が帯同し、ステージ前に血圧を測ったり、注射を打ったり。
若者のように「成功したぜイェー!」と、ただ前進すれば良いというものではない。どんなに有名になっても、残された時間は多くない。
突然の成功に戸惑いながら、老体に鞭打ち、世界を回る様子を見ていると、商業主義に踊らされる、社会主義国の彼らが気の毒に思えてくる。
それでも、ミュージシャンとしては、幸せでもあったのだろう。困惑しつつも、ステージでは本当に楽しそうな顔をしていた。
それでは、本作の評価をしよう。
主観的には★4.5、ツレはつまらなかったようなので、客観的には★3というところか。
おまけ。
ワールドツアーのラストは、ハバナの「カール・マルクス劇場」だった。さすが。
おまけその2
予測変換でポチポチやってたら、ブエナビスタソシアルクラブアディダスになってた。三重線で訂正いたしまふ。(修正済)